最終更新日2024年11月23日
私たちの生活の身近なものに使用されていることが多いのが、グラスファイバーです。グラスファイバーは、単体でも優れた性能を持つものですが、目的に合わせて素材を複合化させることにより、更に優れた性能を持たせることができる素材でもあります。今回は、そのグラスファイバーについて解説していきます。
グラスファイバーとは、溶かしたガラスを繊維状のようにしたもので、太さ数ミクロン~十数ミクロンに成形したガラスの糸のことをいいます。機械的強度が強く、引張り強度・耐薬品性・電気絶縁性・耐熱性などの特性を合わせ持つのが特徴です。
製造過程も特徴的で、摂氏1,600度の高温窯で溶かしたガラス材料を、白金ノズルから毎分約3,000mのスピードで引き出します。主原料は約80%が家庭から排出されたリサイクルガラスです。優れた特性を持ちながら安価で製造できるため、今や住宅・自動車・コンピューター・船舶など、幅広く活用されています。
グラスウールとの違いは、長さと製造方法です。グラスウールは短繊維なのに対して、グラスファイバーは長繊維になります。製造方法に至っては、グラスウールは溶けたガラスを遠心力で吹き飛ばして短繊維状にし、グラスウールは溶けたガラスを高速で巻き取って長繊維状にするのが違いです。
FRPは、形状を保持するために、グラスファイバーを樹脂と複合化し、強化した素材のことです。グラスファイバーはガラス繊維(長繊維)のみだと、糸状になっているため形状が保持できませんが、樹脂とかけ合わせることで、軽さと強度も同時に強化しています。
そのため、FRPで成型された部品は、航空機や自動車、建築材料にスポーツ用具など、様々なものに利用されています。つまり、目的のためにグラスファイバーに樹脂を合せて強化したものがFRPで、グラスファイバーはその素材となるガラス繊維です。
項目 | グラスファイバー | グラスウール(短繊維) | FRP(繊維強化プラスチック) |
---|---|---|---|
繊維の長さ | 長繊維 | 短繊維 | 長繊維を使用 |
製造方法 | 溶けたガラスを高速で巻き取って長繊維状に加工 | 溶けたガラスを遠心力で吹き飛ばして短繊維状に加工 | グラスファイバーを樹脂と混合し、形状を保持する |
主な特徴 | 軽量で強度があり、柔軟。繊維のみでは形状を保持できない。 | 軽量で断熱性が高い。短繊維のため柔らかく、断熱効果に優れる。 | 軽さと高い強度を持つ。繊維と樹脂の組み合わせで形状を保持し、耐久性が向上。 |
用途 | 補強材、建材、各種フィルターなど。 | 断熱材、音響材として建築や工業に使用。 | 航空機、自動車、建築材料、スポーツ用具など、形状保持と強度が必要な製品に使用。 |
製品例 | ガラスクロス、強化プラスチックの基材。 | 断熱材(天井や壁の断熱)、吸音材。 | ボートの船体、車のバンパー、スポーツ器具(スキー板、テニスラケット)。 |
一口にグラスファイバーといっても、様々な種類があります。数ある種類の中から、特に多く使用されているグラスファイバーを見ていきましょう。
Eガラス繊維よりも、優れた高強度・高弾性のあるものを求めて開発されたのが、Sガラス
繊維になります。Eガラス繊維よりも引張弾性が約20%・引張強度が約35%向上しているのが特徴です。その他にも、耐熱性が向上しており、Eガラス繊維の数倍の価格が付いています。
Eガラス繊維の融解時に発生する、ホウ素(B2O3)やフッ素分子(F2)を発生させないガラス繊維です。融解時に発生するホウ素(B2O3)やフッ素分子(F2)は、人体や環境への影響が懸念されている物質なため、この2成分を含まないガラス繊維として開発されました。
しかし、酸化チタンが含まれているため、価格の高さからあまり普及していないのが現状です。今後もSDGsが促進され続ければ、Eガラス繊維に代わる、人や環境にも優しい新たなガラス繊維になるのではと考えられています。
Cガラス繊維は、屋外での使用を目的とし、酸化しないように開発されました。酸への耐性のあるアルカリ成分を多く含むため、別名アルカリガラスとも呼ばれます。使用例としては、蓄電池の隔壁が挙げられます。
ガラスを作るために必要なアルカリ成分がほとんど含まれておらず、絶縁性に優れているのが特徴です。別名を無アルカリガラスとも呼ばれます。耐熱性にも優れているため、性能の向上を目的に、樹脂と複合化されることの多い素材です。価格も比較的安価なため、FRPとして、他のガラス繊維よりも多く活用されています。
固まるとダイヤモンドに匹敵する硬さになる、ジルコニア成分が多く含まれているのが特徴です。それにより、機械的強度や破壊靭性の高さを保持しています。また、高いアルカリ性を持っているため、グラスファイバーのアルカリ性を向上させたい場合に使用されるガラス繊維です。
従来のガラス繊維はコンクリートとの複合はできませんでしたが、ARGガラス繊維は、コンクリートとの複合が可能なガラス繊維です。コンクリートと複合されたARGガラス繊維は、鉄筋とは違い腐食する心配がない・鉄筋がなくても必要な強度を保てる・軽量でありながら材料に必要な厚さを持たせられるといった様々なメリットがあるため、建築や建設現場での、コンクリート建築物の修復材として使用されています。
グラスファイバーはどのようなものに加工されているのか、いくつか解説していきます。
グラスファイバーが加工されている物として最もポピュラーといえるのが、ガラス繊維強化熱硬化性プラスチック(FRP)です。耐熱性・電気絶縁性・寸法安定性などに優れているため、電気製品といった身近な物から高い精度の求められるものまで、幅広く使用されています。
特に、FRPに炭素を添加したものは、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)と呼ばれ、自動車や航空機などにも使用されています。現代の機械製造に欠かせない素材の内の一つといえるでしょう。
ポリプロピレン樹脂や塩化ビニル樹脂などを、ガラス繊維と複合させることで、熱や衝撃に強くしたものが、ガラス繊維強化熱可塑性プラスチック(FRTP)です。自動車部品や電気絶縁体など、身近なものに使用されています
グラスファイバーを配合した紙で、耐水性が向上されているのが特徴です。耐水性を目的とした壁紙・床材・フィルタといった部分で使用されています。
ガラス繊維で織られた織物(シート)は、強度と耐水性が高いのが特徴です。縦横に引っ張っても伸びることがほぼなく、ドームの屋根・道路補強用クロスといった、屋外工業用として使用されています。
ARGガラス繊維とセメント素材を複合させたものが、ガラス繊維強化セメント板(GRC)です。セメントに性能の高いガラス繊維が含まれていることで、これまで鉄筋やコンクリートを大量使用して実現していた強度や厚みといった部分を補い、更には軽量化することもできます。
グラスファイバーは、特殊な場合にのみ使用されるものではありません。私たちの生活の中でも、大いに役立つ素材として使用されています。グラスファイバーの身近な使用例を見ていきましょう。
グラスファイバーは、爪の長さだしや亀裂の補修、地爪の補強にも使用されています。ネイルが好きな人であれば、一度は使用した経験があるかもしれません。
歯の治療にも使用されています。グラスファイバーを固めたものは、歯に似た透過性や柔軟性を持つことから、歯根治療後にかぶせものを支える台として、採用されている医院もあるようです。
傘のフレーム素材としても、使用されています。傘には高い弾力性が求められることから、使用されているグラスファイバーの種類はFRPです。
1975年よりも以前は、アスベストと呼ばれる天然素材が、住宅の保温・防音の役割をする素材として使用されるのが当たり前でした。しかし、アスベストには肺繊維症(じん肺)や肺がんになる可能性があることが判明したことから、アスベストの代わりとなり、人体に悪影響を与えない素材として、グラスファイバーの使用が普及、活躍しています。
グラスファイバーは加工次第で、様々な性能を向上させることができる素材です。身近な物や製品にも多く使われており、グラスファイバーによって、豊かで便利な生活が支えられているといえます。今後も目的によって新しいグラスファイバーが誕生し、画期的な用途で生活の質をより向上させてくれることが期待できるでしょう。